第5部:キャンバスとExcalidraw ― 考えを図にする
この資料について
●前提
第1部〜第3部の内容(インストール、リンク、バックアップ)を終えていること。
●この資料の位置づけ
テーマ別の独立資料です。第4部(タスク管理)とは独立しているので、どちらから読んでも構いません。
●この資料のゴール
文章では整理しきれない考えを、図として扱えるようにすること。
●バージョンについて
本資料は 2026年9月時点、Obsidian v1.13.7 で動作を確認しています。
1. その前に ― 向き不向きの話
1-1. Obsidianは作図ツールではありません
第4部と同じように、最初に線を引いておきます。
きれいな図を作ることが目的なら、専用ツールのほうが優れています。 PowerPoint、draw.io、Figmaなどには、整った図形、豊富なテンプレート、精密な位置合わせ、共同編集機能があります。Obsidianの図はそこまでの水準に届きません。
では、なぜObsidianで図を扱うのか。理由は第4部と同じ構造です。
考えを整理する段階の図は、メモと切り離せないからです。
企画を練る、問題を分解する、読んだ内容の関係を掴む——こうした場面で描く図は、清書のための図ではなく、考えるための図です。作った時点で役目の大半が終わることも多く、専用ツールを立ち上げて保存先を決めて……とやっていると、考える勢いが削がれます。
Obsidianで図を扱う価値は、メモと同じ場所に、同じ手軽さで図が置けることです。
1-2. 「考えるための図」と「見せるための図」
この2つは、はっきり別物として扱ってください。
| 項目 | 考えるための図 | 見せるための図 |
|---|---|---|
| 目的 | 自分が理解する | 他人に伝える |
| 見た目 | 雑でよい | 整っている必要がある |
| 寿命 | 短い(描いたら役目終了も多い) | 長い(資料として残る) |
| 適したツール | Obsidian | PowerPoint、draw.io など |
Obsidianが担当するのは左側です。右側を無理にObsidianでやろうとすると、機能不足に苛立つことになります。
1-3. 向いていない使い方
- 完成品としての資料作成(提案書の構成図など)
- 他人との共同編集
- 精密な図面や、寸法の正確さが求められるもの
- スマホでの本格的な作図(画面が狭く、実用的ではありません)
この線引きを踏まえたうえで、2つの道具を見ていきます。
2. キャンバス ― ノートを空間に並べる
2-1. 何ができるか
キャンバス(Canvas)は標準機能です。プラグインの追加は不要で、無限に広がる白い board の上に、カードやノートを置いて線でつなげます。
最大の特徴は、既存のノートをそのまま置けることです。カードの中にノートの中身が表示され、その場で編集もできます。
2-2. 使ってみる
- 左サイドバーの新規キャンバスアイコンをクリック(または
Ctrl/Cmd + Pで「キャンバス」) - 名前を付けると、
.canvasファイルが作られます - 白い画面をダブルクリックすると、テキストカードが置けます
【スクリーンショット:キャンバスの初期画面】
置けるものは4種類です。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| テキストカード | その場で書くメモ。Markdownが使える |
| ノート | Vault内の既存ノート。中身がそのまま表示される |
| 画像・PDF | 添付ファイル |
| Webページ | URLを埋め込む |
ノートを置くには、左のファイル一覧からキャンバスにドラッグするのが簡単です。
2-3. つなげる
カードの端にカーソルを合わせると丸い接続点が出ます。そこからドラッグすると、別のカードへ矢印が引けます。
矢印はダブルクリックでラベルを付けられるので、「原因→結果」「AならばB」といった関係を書き込めます。
2-4. リンクとの違い ― なぜキャンバスが必要か
第2部で、リンクとバックリンクを扱いました。ノート同士のつながりはリンクで表現できます。では、なぜキャンバスがあるのでしょうか。
違いは3つあります。
① 位置に意味を持たせられる
リンクは「つながっている」ことしか表せません。キャンバスなら、上下で優先順位、左右で時系列、近さで関連の強さを表現できます。この「並べ方そのものが情報」という点が、文章にはない利点です。
② 一望できる
リンクを辿る作業は、1つずつ開いて戻ってを繰り返します。キャンバスなら、20枚のノートを同時に視界に入れられます。
③ まだノートになっていないものも置ける
思いつきの断片を、ノートにする前にテキストカードとして放り込めます。
グラフビューとの違い
第2部のグラフビューと混同しやすいので整理します。
- グラフビュー:リンクから自動生成される。眺めるもの
- キャンバス:自分で手で並べる。作るもの
別物です。グラフビューは既存のつながりの確認、キャンバスは新しいつながりを作る作業に使います。
2-5. ファイル形式について
キャンバスは .canvas という拡張子で保存されます。これは他のノート(.md)とは違う形式なので、第1部で説明した「すべてただのテキストファイル」からは少し外れます。
ただし、心配は要りません。この形式は JSON Canvas という名前で公開されており、2024年3月にバージョン1.0がリリースされたオープン仕様です。仕様書はオープンソースで公開されており、他のアプリでも自由に読み書きできるよう設計されています。
中身はJSONなので人間が読める形式ですし、Obsidian以外にも対応するアプリが登場しています。囲い込みの心配はありません。
2-6. 使いどころの例
- 企画を練る:思いつきをカードで散らし、動かしながらグループにまとめる
- 既存メモの棚卸し:関連しそうなノートを並べ、関係を線で引いて構造を発見する
- 文章の構成づくり:段落ごとにカードを作り、順番を入れ替えて流れを決める
- 調べ物の整理:Webページと自分のメモを並べて突き合わせる
■ やってみましょう(1)
キャンバスを1つ作り、これまでに書いたノートを3〜4枚ドラッグして置いてください。位置を動かし、関係のあるもの同士を矢印でつないでみましょう。
3. Excalidraw ― 手で描く
3-1. キャンバスとの違い
キャンバスが「ノートを並べる」道具なのに対し、Excalidrawは「図そのものを描く」道具です。四角、丸、矢印、フリーハンドの線を、自由に描けます。
これは標準機能ではなく、コミュニティプラグインです。第3部で扱った制限モードの解除が必要になります。
3-2. 何ができるか
Excalidrawプラグインは、多機能なスケッチツールであるExcalidrawをObsidianに統合するものです。Vault内で描画ファイルを保存・編集でき、図をノートに埋め込んだり、図からノートへ、ノートから図へリンクを張ったりできます。
特筆すべきはObsidianとの統合の深さです。
- 図の中に
[[ノート名]]と書けば、内部リンクとして機能します - 図の中に書いたリンクは、リンク先ノートのバックリンクに表示されます
- ファイルの移動やリネームがあっても、リンクは自動更新されます(設定が有効な場合)
- 図の中に、他のノートの内容を埋め込めます
つまり、図もObsidianのネットワークの一部になります。 これは外部の作図ツールでは実現できない部分です。
3-3. 「手描き風」であることの意味
Excalidrawの見た目は、意図的に手描き風になっています。これは好みの問題に見えますが、実用上の意味があります。
きれいに整った図は「完成している」印象を与えます。すると、自分でも他人でも、直しにくくなります。手描き風の図は「まだ途中」という感じが残るので、気軽に消して描き直せます。
考えるための図には、この性質が向いています。1-2で述べた「考えるための図」と「見せるための図」の違いが、ここにも表れています。
3-4. 導入するときの注意
① 非常に多機能です
Excalidrawは開発者自身が「機能が非常に豊富で、最初は圧倒されるかもしれない」と述べているほど大きなプラグインです。設定項目も膨大にあります。
最初はすべて無視してください。 四角を描く、線を引く、文字を書く。この3つだけで始めれば十分です。
② 保存形式
図は .excalidraw.md という形式でVault内に保存されます。Markdownファイルとして扱われるため、バックアップや同期の対象から漏れる心配はありません。第3部で設定したバックアップがそのまま効きます。
③ 第3部のルールを守る
「一度に1つだけ入れる」「困ってから入れる」というルールは、ここでも有効です。まずキャンバスを試して、「自由に線を引きたい」という具体的な不満が出てから導入してください。
■ やってみましょう(2)
Excalidrawを導入する前に、まずキャンバスで1週間ほど作業してみてください。キャンバスで足りるなら、Excalidrawは不要です。
4. 使い分け
| キャンバス | Excalidraw | |
|---|---|---|
| 種類 | 標準機能 | コミュニティプラグイン |
| 得意なこと | ノートを並べて関係を見る | 図形を描く、自由に線を引く |
| 主な素材 | 既存のノート、カード | 図形、手描きの線 |
| 向いている作業 | 情報の整理、構成づくり | 概念の図解、説明図 |
| 学習コスト | 低い | やや高い |
迷ったらキャンバスです。 標準機能で、覚えることが少なく、それでいて「並べて考える」という中心的な用途は満たせます。
Excalidrawが必要になるのは、「四角と矢印では表せない何かを描きたい」と感じたときです。その感覚が来ていないなら、まだ早いということです。
5. 図を使うときの原則
道具の話から離れて、運用の注意点を1つだけ書きます。これが一番大事かもしれません。
5-1. 重要な情報を図の中だけに置かない
図の中に書いた文字は、ノート本文と同じようには扱われません。 検索での見つかりやすさや、他の機能からの参照のしやすさは、通常のノートに劣ります。
第2部で確認したとおり、Obsidianの基盤はリンクと検索です。図はその上に乗る補助的なものであって、代わりにはなりません。
したがって、次の使い方を守ってください。
図は「考えるための作業台」。結論はノートに書く。
キャンバスで議論を整理したなら、そこで得られた結論はノートに文章として書き直してください。 図は残しておいて構いませんが、それを唯一の記録にしないことです。
半年後の自分は、図を探しません。検索します。
5-2. 描き直しを惜しまない
図は資産ではなく、思考の副産物です。古くなったら描き直せばよく、過去の図に縛られる必要はありません。
キャンバスもExcalidrawも、複製が簡単にできます。行き詰まったら、丸ごとコピーして作り直すほうが早いことがよくあります。
まとめ
- Obsidianの図は「考えるための図」。清書は専用ツールに任せる
- キャンバスは標準機能。ノートを並べ、位置と矢印で関係を表現する
- グラフビューは自動生成、キャンバスは手で作る。別物
- Excalidrawはプラグイン。図そのものを描く。Obsidianのリンク機能と統合されている
- 迷ったらキャンバス。不満が出てからExcalidraw
- 結論は必ずノートに書く。 図は作業台であって、記録の置き場所ではない
付録:キャンバスの基本操作
| 操作 | 方法 |
|---|---|
| カードを追加 | 空白部分をダブルクリック |
| ノートを配置 | ファイル一覧からドラッグ |
| 矢印を引く | カードの端の接続点からドラッグ |
| 矢印にラベル | 矢印をダブルクリック |
| 移動 | 空白部分をドラッグ、またはスペースキー + ドラッグ |
| 拡大・縮小 | マウスホイール、またはトラックパッドのピンチ |
| 全体を表示 | 右下のズーム操作、または Shift + 1 |
| 複数選択 | 空白部分からドラッグで囲む |
操作は感覚的に覚えられるので、実際に触りながら確認してください。一覧を暗記する必要はありません。
